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◆日本語ブ-ムにひと言
「本を選ぶ」(ライブラリ-・アド・サ-ビス発行) 【No.236 2005/01】

 不況の時代には日本語本が売れる。理由は、1.先行き不安の閉塞感、2.ゆえに伝
統回帰の古典が見直される、というのがこれまでのパタ-ン。今回のブ-ムは、それに
加えて、3.(日本語の乱れはもちろんあるのだが、それ以上に)急激に変化する言葉に対応を迫られている、4.情報化の波をかぶって平板な言葉が氾濫していることへの危惧感、5.グロ-バリゼ-ション化による「英語偏重」への防護壁という意味合い、6.忘れられていた朗読の効用が、斎藤孝さんの『声を出して読みたい日本語』によって見直された-これらが、21世紀初頭の日本語ブ-ムを解読するおおかたの見方のようだ。 それだけだろうか、という気持がまだぬぐいきれない。中高年の教養ある識者の説としてそれぞれ説得力はあるのだが、最近特に目立つ新聞・雑誌の故事ことわざや四字熟語のクイズ欄やテレビの教養・娯楽番組のテ-マ設定は、いかにも平板で新鮮さはない。
ブ-ムに便乗しているように思えてならない。
 若年層の言葉の使い方がより洗練されてきたとはとても思えないし、学習指導要領の
改訂で国語の授業時間が減った子どもたちの関心が、格別に日本語に向いているとも
思えない(先日の読解力の国際比較で学力低下が立証された)。ついでに言っておけば、国語辞書の売れ行きが長期低落を続けていることも気になる。

 私見だが、このブ-ムの背景には、ワ-プロ・パソコンの普及に始まり、今日だれもが要請されるネット・コミュニケ-ションに有効な日本語表現、いやおうなく表現しなければならない言葉による自己表現の要請が根底にあるような気がするのだ。
 ワ-プロを使い始めたとき、使ったこともない漢字が(思いがけなく)変換され、文章に
「箔」がついたような気がした。辞書との取っ組み合いで手書き原稿を繰り返し推敲する
手間が省けるようになった(個人的には密度は低下したと思っているが)。
 要するに、日本語表現が、より大衆化せざるを得ない状況がある日突然生まれ、その
現象が現在まで持続している。それがブ-ムをもたらしているように思われるのだ。
 もちろん、上記3・4・5の、新しい時代の変化への対応は急を要しているだろう。学力低下への対策も緊急の課題だ。またそれ以上に、「日本語ブ-ム」の深層には、「揺らぐ社会・内向する心」という今日的課題が横たわっていることは事実で、中高年の切実な営みは続けられるだろう。俳句・短歌・民話や昔話、そして自分史なども、やはり言葉の世界に属する。
 昨年まで勤務した出版社で担当した『生かしておきたい江戸ことば450語』『現代の短歌-100人の名歌集』『ホトトギス-100人の名句集』『日本昔話百選』などが好評を博しているのも故ありと思っている。
                                     (伊藤雅昭・みやび出版)

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