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◆『言語学大辞典』のこと
「本を選ぶ」(ライブラリ-・アド・サ-ビス発行) 【No.237 2005/02】
 
前回「日本語ブ-ム」について触れたが、世界のことばへの関心についてはどうだろう。
英会話や海外旅行書の類は、書店に溢れんばかりに並べられている。辞典類も、会話集・単語集などを含めれば、世界の言語人口の大多数を覆ったかに思われる。
 国際化がここまで進んでくると、必要に迫られて学習する人に加え、異文化交流や体験旅行などの需要も増えているに違いない。メジャ-な「TOEIC」の資格習得に奔走する人ばかりでなく、少数民族言語の獲得に意を燃やしている人々もたくさんいるだろう。
 直接私が編集に携わったわけではないが、1984年に編集が始まり2001年刊行の別巻『世界文字辞典』まで、世界全域に滞在する300人の日本の言語研究者の結集の上に完結した、全7巻・計10,000ペ-ジを超す大著『言語学大辞典』について、この欄で触れておきたい。
 専門書ということであまり世間の評判にはなっていないが、世界の諸言語3,500についてそれぞれ系統・分類・音韻・形態・統語・方言・語誌・辞書などきめ細かく記述したこの辞典の存在意義は、画期的かつ普遍的なのもだと確信している。PRの仕事で、10年余りかなりの数の執筆者・編集者と交流したくさんの余話をご披露頂いた。中でも比較言語はそのまま比較文化となっており、まさにエピソ-ドの宝庫である。
 ほんの一例、数詞について-「フランス語では、97+98というときに、4×20+17足す4×20+18と言っているわけでしょう」「チェコだってすごいよ、子どもに時間を聞かれたとき、例えば4時42分なら、あと3分で5時に向かって4分の1が三つと、こう言わなければならない」「ラテン語で18,19というのは、20引く2,20引く1なんですね」「市場で符牒があって、9のことをキワとかガケというんですよ。10に行く前という意味」「アフリカでは産むという数字が9.子どもが産まれる月という意味ですね」「日本語では、ひい、ふう、みい…とお と、10以上勘定したらそれ以上勘定できないので外来語を使わざるを得ない」「中国語では、2というのは特別な数字で10進法と12進法が、神話的基礎の上に併用されている」「日本人の場合、目は2個で一つの単位だったようです。この頃は目の絵を描けといったら1個描くようになった。日本人の感覚が変わったんです」-「ぶっくれっと」97号(1992.1月 千野栄一・石井米雄・中野美代子・西江雅之)より抜粋。
 「もし地球の言語が全部分かれば、人間の言語のユニバ-サルな枠というのが理解できる」という編者の夢が、この辞典の完成によって一定方向付けられたのだと思う。この数年のうちに相次いで亡くなられた三名の代表編者、親しくおつきあいを頂いた亀井孝・河野六郎・千野栄一の諸先生方のご努力に表意を表したいと思う。
 今後は、この辞典を普及させるための英語訳や、有効なデ-タ活用を強く望んでいる。
                                     (伊藤雅昭・みやび出版)

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