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◆編集者の仕事(8) 編集者のこれから 上
「本を選ぶ」(ライブラリ-・アド・サ-ビス発行) 【No.245 2005/10】

 今、1983年刊行の<出版電子化時代>という雑誌連載の記事を読み返している。
 その最終回に「ニュ-メディアの将来と出版」と題する博報堂のメディア開発局長の論考がある。この年は、世界コミュニケ-ション年とされ、ニュ-メディア元年と謳われていた。
当時は「ファクス」「キャプテンシステム」「ビデオディスク」がやっと実用化された時期で、この論考には日本におけるその後の開発スケジュ-ル、例えば文字多重放送・双方向CATV(ケ-ブルテレビ)・INS(高度情報通信システム)などの実用化の青写真が克明に記されている。
 出版・印刷にかかわるところでは、大手印刷会社の開発担当者の講演「もう印刷は工場でする時代ではない。末端のユ-ザ-がその場でプリントアウトして使う時代だ。印刷という商売は、出版という領域では間もなく(売上の)2,3%になるだろう。われわれははっきり情報分野に入ろうと思っている」を引用して、新聞も、編集されたものを工場の代わりに家やオフィスで印刷されるようになるだろう、と予測している。
 現実とは異なる部分もあるが、当時私はこれを読んで仰天した。同時に、このような高度な技術革新は、ソフト提供者としての編集者の領域には影響は少ないと思ってもいた。
 しかしその後のバブル景気による大衆化社会の進展、「パソコン」「多機能携帯電話」の普及、そしてなによりインタ-ネットが社会を、人々の生活を揺さぶることとなった。インタ-ネットが一般化したことは、一方で世界全体を同一原理で結ぼうとするグロ-バリゼ-ションの進行を意味し、もう片方では逆に、情報量の増大にともなう無数の選択肢が生まれ、多様化した価値が社会を覆うことを意味する。したがって既存のメディアも、個々の需要や好みに対応する変革が求められることになった。
 もちろん出版も例外ではない。書店にはCD、ビデオ、DVD、電子出版のコ-ナ-がかなりの面積を占めるようになり、読者の趣向に合わせた専門雑誌、ムック、コミック、単行本ではすぐに役立つ実用廉価本が所狭しと並べられるようになった。20代の芥川賞作家が登場し、くったくのない明るさをもつ作品がベストセラ-となっている。そして最も気になるのは、アカデミックな学問の権威がずいぶん低下し、文学や人文科学の いわゆる古典や教養書の影が薄くなった印象が強いことだ。
 出版社の側も、バブル後の景気の低迷で管理強化が進み、効率主導の経営は「質」よりも「儲け」を優先するため、良質な本作りへの意欲が減退している。編集者がサラリ-マン化し、著者と一度も顔を合わせないで一冊の本ができてしまうという笑えない現実もある。
編集技術のコンピュ-タ化が進み、編集プロダクションに一切を丸投げする傾向も顕著になっている。
 グ-テンベルグの活版技術の発明以来という大変革期に、出版の原点とされる「教育」「啓蒙」「記録」「保存」「継承」という課題に、編集者はこれからどう取り組んだらよいのだろう。
                                     (伊藤雅昭:みやび出版)

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