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黒川鍾信著『海辺の家族-魚屋三代記』の書評(抜粋)が各紙に掲載されました

◇上質な舌平目の読後感
 名エッセイストとして知られる著者初の長編小説という触れ込みに惹かれ、本書を手にした。魚屋三代記というサブタイトルにも同業の好(よしみ)を感じた。
 舞台は東海道五十三次の宿場の一つとして栄えた神奈川県大磯町。代々旅籠「阿部屋」を営んできた阿部家であったが、「宿駅制」が廃止になり、時代の荒波に巻き込まれていく。
 大正から昭和にかけての魚屋の生活をじつに細やかに描写し、歴史を動かした人々を縦横無尽に登場させて小説に仕上げていく手法は見事という他ない。上質な仕上がりは明治大学の学風を感じさせ、冷えたシャブリのグラスを傾けながら、肉厚の舌平目のムニエルを食したような読後感であった。
                <2012年11月11日 「読売新聞」畠山重篤氏・評から>

◇忘れられていた絆と家族愛
 神奈川県大磯町は、かつて万葉集や古今集の歌にも詠まれた宿場町だった。陣屋や脇陣屋が軒をならべ、紅灯の巷も参勤交代の客で大繁盛。明治維新を迎えて一気に零落。海辺の寒村と化した。
 物語は、昭和28年頃から始まる。主人公の阿部祐吉は東京の建設会社で働く新人サラリーマンだ。大磯から1時間半をかけて通勤していた彼は暮れの賞与で家族に贈り物をしようと銀座の白木屋百貨店へ行った。そこで見初めたのが荒川信子だった。信子は当時、女性あこがれの職業だったデパートガール。魚の臭いが似合う女性ではない。ところが彼女は、祐吉を選んで魚屋の嫁にきた。……
 著者は日本エッセイスト・クラブ賞受賞作家。洒脱な文章に思わず笑ってしまうが、各所にちりばめた蘊蓄と、すべての人物にモデルが存在するというだけに説得力がある。そして一見“大磯物語”の体裁をとりながら、現代の日本人が忘れていた生活周辺の絆と家族愛が重い響きとなって伝わってくる。読後の爽快感は、何にも替えがたい。
                   <2012年12月2日「産経新聞」大野芳氏・評から>

◇みんな善人 みんな苦労人
 大磯は別荘地だった。その前は宿場町。土地の営みは海を抜きに語れない。近代から現代へと歴史をひもときながら、東京圏の世相という大きな額縁のなかで登場人物たちを右に左に動かす。
 まず理路があり、次いで物語がある。元大学教授らしい小説づくりだ。実在の住民が下敷きなのか、漁師、行商にかぎらずどの人物も立ち居が生々しい。
 曲折はあっても家族には一貫して波風がない。悪意の者がいないからだ。絆安泰、みんな成功めでたしめでたし…。こんな時代だ。こんな物語があっていい。
                           <2012年11月4日「神奈川新聞」より>
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